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北京五輪レースレポート

片山梨絵レースレポート

日時:2008年8月23日(土)
大会名:第29回オリンピック競技大会 2008北京 自転車・マウンテンバイク競技
開催場所:中国 老山 MTBコース 
天候:晴れ・ドライコンディション 気温:32度
距離:26.7km(6周回)
結果:女子 20位
1, SPITZ Sabine(GER) 1:45:11
2, WLOSZCZOWSKA Maja(POL) +0:41
3, KALENTYEVA Irina(RUS) +1:17
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20 KATAYAMA Rie -1rap


 今まで体験したことの無いような大きな声援の中、通常3分前からあるスタートのコールが聞こえず、気がついたときには30秒前!急いで右脚のクリートをペダルへと装着しました。いよいよ本番。今まで経験してきたこと、努力してきたこと全部の本番。自分からスタートラインに向かうというよりも、「時間に背中を押されながらここまで来てしまった」そんな感覚が本音でした。それでも毎日すべき事はしてきたんだから、あとの結果は神様まかせ。とりあえず落ち着いていつもの走りをする覚悟はできていました。

 中国人の大声援にかき消されそうなスタートの号砲が鳴り、集団がふわりと動き出しました。舗装路ですぐに左コーナー。落車のありそうなレイアウトでした。注意深く走っているとやっぱり落車があり、フルブレーキした上に後輪を当てられた衝撃で大きく失速してしまいました。自分の持っているパワーは全て良い順位でシングルトラックへ入っていく為に使いたかったのですが、集団に追いつくだけで必死という状況に。去年同じコースであったプレ大会では、上出来に決まったスタートで良いポジションをとり、そのハイスピードな流れに乗ったまま苦しい以上のゾーンに入って走れたので、今回もそれを狙っていました。しかし現実は…痛い出だしでした。必死にもがいていると、横で同じくスタートに失敗した中国人2選手が腰を上げ、ペダルを踏み込みました。「これに付いて行けば集団前方まで行ける!」頭ではそう感じても、酸素が十分行き渡っていない細胞達はそのようには反応してくれませんでした。スタート後の混乱も落ち着いて、なんとか付いていけるペースの集団と一緒にコース後半の一番激しいダウンヒルセクションにさしかかりました。そこは押して歩くのも困難なほど急な斜度で、自転車を降りるとかなりタイムロスをするため、なんとしても乗って行きたいところ。通常なら前走の選手が押しているときは自分も自転車を降りて押すのが冷静な判断なのですが、どうしても前に行きたい気持ちが先行してそのまま突っ込み、転倒してしまいました。前で自転車を押している選手がエスケープルートを歩いてくれると願っての突っ込みだったのですがメインルートを行かれてしまい、私は下りの途中で止まれなかったのです(この時の木に抱きついて止まるシーンはテレビで何度も放送されることになってしまいました…)。

 2周目からはだいぶ人がまばらになり、1人で走る時間が長くなってきました。こういうときはどうしてもペースダウンしてしまいがちなので要注意です。厳しい暑さのせいか、目の前で優勝候補のMarie-Helene選手(カナダ)がフラフラと走りながらコーステープをくぐり、レースをリタイヤしていきました。熱中症でしょうか。このコンディションは誰にとっても厳しいもの。諦めない、踏むのを辞めないことが大事…。その一心で一回一回のペダリングに気持ちを込めました。3周目、自分のペースダウンが肌で感じられて、不安に負けそうになります。コースサイドで応援してくれたチームメイトでアテネオリンピアンの竹谷選手が「みんなもペースが落ちているから大丈夫!」と声をかけてくれます。しかしスタートラインに設けられた時計で周回ごとに確認するトップとのビハインドは予想以上に離れていってしまいます。マウンテンバイクのレースでは、「1周目の最速ラップの80%を超えるタイムの遅れをとると、次の周回に入れない」というルールがあります。特に五輪のコースは劇場的な見栄えを意識してなのか1周あたりのタイムが短く周回数が多いので、毎回日本人選手は完走の壁を破れずにいました。今回の北京に臨むまでにはアテネ代表の中込選手、竹谷選手に多くの指導を受けていたので、そんな先輩たちの積み重ねを引き継いで、完走だけは絶対する、そして、良い結果を残す、というのが今回の目標でしたし、それが出来ると信じていました。毎周回1人か2人の選手を抜かして、着実に順位を上げていました。アジア特有の蒸し暑さに耐える能力は他のライダーたちに負けません。踏み続ければ、前の選手の背中が見える。そうして集中力をつないでいきました。

 5周目の後半、後方から最後尾を追うバイクのエンジン音が聞こえました。4周目で多くのライダーが80%ルールによりタイムアウトになったようです。そのまま後追いバイクが私たち2名のライダーを抜かして行きます。「どうゆう意味??」とタイムアウトの可能性に焦りながらありったけの力を振り絞っていると、普段転ばないようなセクションで連続して転倒してしまい、大きなタイムロスと、順位を1つ下げるというミスをしてしまいました。そして、まさかのタイムアウト。最終周回には入れずに私の北京五輪が終わりました。

 レースが終わって感じたことは「終わっちゃった。」ということ。こんなはずじゃなかったのに、終わっちゃった。目標に向かってみんなの力を合わせて突き進むのがとても興奮して楽しい時間だったのに、終わっちゃった。しばらくは空虚感にとらわれてぼーっとしていました。

 初めて出場した五輪。あらゆる競技、あらゆる国の選手が、ひとつの目標に向かって進むその空気を胸いっぱいに吸い込めたことはかけがえの無い経験だったと思います。勝つものがいれば、負けるものがある。すべの人の努力を尊く思うと同時に、勝者の力を見せつけられました。

 五輪が終わってからもう2ヶ月近く経とうとしています。この期間は気の向くままに自転車に乗り、旅行をして、リラックスした時間をすごしました。心身ともにとても練習できるような状態ではなく、自由な時間が必要で、いろんな事を考えていました。

-もう充分やってきたんだからこれ以上苦しむ必要はない。
-たった4年だけで自分の力に限界を決めて良いのか?
-せっかく素晴らしいスポーツに出会い、素晴らしい環境を与えられているのだからこの場でもっと成長してみたい。
-こうしているうちにも細胞はどんどん老化して、自転車を降りた後の人生が縮んでいく…。

でも結局はペダルを回すことが心地よく、もう少しこのクロスカントリーレースという場で冒険してみたいと思っています。少し登り方を工夫して、より頂点に近い場所の景色を見られるように。